No.3 索道メーカー別高速チェアリフト史(日本ケーブル編)

索道レポート

2025/2/5
No.3 索道メーカー別高速チェアリフト史(日本ケーブル編)


多くの長大ゴンドラが眠る東北地方
単線循環式特殊索道(コンビリフトを含む)とします。単線循環式索道とは,搬器が停留所と停留所の間ではロープに固定されて高速運転をし,停留所ではロープから切り離され減速するリフトです。特殊索道は,ゴンドラではなくチェアリフトのことです。乗降が容易でスピードが速く,スキーの着脱も不要なため,効率よくスキー場を楽しむためにぜひ利用したいリフトです。

▲雫石スキー場

1. 高速リフトの登場

日本ケーブル初の自動循環式チェアリフト
近年スキー場で多く見かける自動循環式クワッドの先駆けとなるリフトは,意外にも最近の1980年代に大きく普及しました。
その自動循環式チェアリフトの国内初登場は1983年であり,同じ年に異メーカーでテイネハイランドスキー場と志賀高原高天ヶ原スキー場に2本建設され,日本ケーブルは高天ヶ原スキー場に「高天ヶ原トリプルチェアリフト」を開発建設しています。
もう一方のテイネハイランドスキー場に建設された自動循環式リフト「北かべトリプルチェアリフト」は,安全索道製であり全く同じ年の開業であることから当時のメーカー争いが熾烈なことが伺えます。
2本の営業開始年月日を見ると,北かべトリプル(許可:1983/8/25 営業開始:1983/11/30),高天ヶ原トリプル(許可:1983/9/29 営業開始:1983/12/28)と安全索道の方がタッチの差で先になっています。また,許可年月日を見ると安全索道の方が先に認可を得ており,日本ケーブルは遅れをとりながら急ぎ追い越せで認可に尽力したと考えられます。さらには,建設年の1983年は10月末より豪雪となり機械据え付けに困難を極めたようで関係各所の努力が伺えます。
現在は,高天ヶ原トリプル・北かべトリプルともにクワッドに架け替えられていますが,高天ヶ原トリプルの方は1997年と早く架け替えられているため,輸送ニーズの増加のみならず開発機であるゆえ扱いづらい面もあったと考えています。(北かべトリプルは2008年架け替え)
また小ネタですが,高天ヶ原トリプル建設時は輸送能力1,800p/hでしたが,後になり1,200p/hに変更されています。

▲図1 高天ヶ原クワッド(1997年にトリプルからクワッドに架け替え)

■高天ヶ原トリプルチェア
●線路傾斜こう長:878 m
●高低差:    232 m
●輸送能力:   1,200 p/h
●速度:     4.0 m/s
●定員:     3 名
●索道メーカ:  日本ケーブル
●方式:     単線自動循環式(3-CLD)
●営業期間:   1983年12月~1997年

■高天ヶ原クワッドリフト
●線路傾斜こう長:855 m
●高低差:    233 m
●輸送能力:   2,400 p/h
●速度:     4.0 m/s
●定員:     4 名
●索道メーカ:  日本ケーブル
●方式:     単線自動循環式(4-CLD)
●営業期間:   1997年11月~

1. 高速トリプルリフト

高速トリプルリフトの建設ラッシュ
日本初の高天ヶ原トリプルが建設されると,翌1984年には10基もの高速トリプルリフトが全国各地のスキー場に建設されました。クワッドが多く建設された現在では高速トリプルはあまり馴染みがありませんが,自動循環式認可当時は4人乗りリフト(=クワッド)は認可されておらず,認可されたのは1985年になります。今でこそ当たり前になっているクワッドですが,当時は当たり前ではなく自動循環式登場後の2年後にクワッドが登場しています。
さて,クワッド登場までの1984年~1985年の2年間で多くの高速トリプルリフトが建設されることになります。日本ケーブルは過半数を占める高速トリプルリフトを建設し,今では非常にレアなリフトとしてヲタを喜ばせています。

▲図2 上越国際大沢トリプル

初期の自動循環式の特徴
1984年に建設された自動循環式のトリプルリフトは,開発間もないこともあってか今の機種では見かけない多くの面白い特徴があります。まず目を引くのは山麓駅の建屋内にある2つの大きな縦型のプーリーが並列にある構造です(図3)。マニアあいだでは縦プーリーと呼ばれていますが,この構造はこの世代の高速トリプルリフトと川鉄(JFE)の一部でしか見かけない希少な構造です。一般的に索道はワイヤ(索条)を一定の張力に保つための緊張装置が必要となり,この世代の主流な構造はコンクリートで固められたおもり(重錘)で折り返し滑車を引っ張ることでワイヤの緊張を保っています。この主流の構造の折り返し滑車(図では原動緊張滑車と表記)は,水平方向にワイヤを折り返す横型になっており現在でも多く見ることができます。日本ケーブルの初期の自動循環式の構造は紹介した主流タイプではなく,縦に並んだプーリーにより垂直方向にワイヤを誘導して地下にある折り返し滑車(原動緊張滑車)によりワイヤを折り返します。この構造により,モータや減速機などの原動装置をおもりとして利用することができます。

▲図3 縦プーリー(石打丸山中央高速)

▲図3 高速トリプル原動緊張装置構造

▲図3 重錘を用いた一般的な緊張装置構造